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風の川: 母に言えなかった 「ごめんね」が、 ありがとうに変わるまで

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母の最期に、間に合わなかった。

その日から、水野美樹の時間は止まったままだった。

大学病院の救急病棟で、若い患者の命を救うために処置を続けていた美樹。その最中、末期がんで入院していた母の病院から電話がかかってくる。

処置が終わったら、すぐにかけ直そう。

そう判断した美樹だったが、電話をかけ直したとき、母はすでに息を引き取っていた。

看護師として一人の命を救った日に、娘として母の最期に間に合わなかった――。

誰からも責められていない。それでも美樹は、「最期にそばにいなかった自分に、母を愛していたと言う資格はない」と、自分を責め続けていた。

救急病棟を退職した美樹は、看取りを行う介護施設で働き始める。

そこで出会ったのは、言葉をほとんど発することのできない川上千代と、さまざまな事情を抱えながら人生の終わりを迎えようとする人々、そして、その人たちを見守る家族や職員たちだった。

返事がなくても、声をかけること。

答えが分からなくても、同じ時間を過ごすこと。

命を引き止めることができなくても、最後までそばにいること。

美樹は人々の手や呼吸、沈黙に触れながら、「何かをしてあげること」だけが寄り添うことではないと、少しずつ知っていく。

しかし、ある入居者の最期に家族が間に合わなかった夜、美樹の中で、母を失った日の記憶が再びよみがえる。

もっと早く気づけたのではないか。

もう少し何かできたのではないか。

繰り返される後悔の先で、美樹はもう一度、大切な人の最期と向き合うことになる。

『風の川』は、母に言えなかった「ごめんね」を胸に抱えた一人の女性が、悲しみを忘れるのではなく、その中にあった「ありがとう」と「会いたかった」に気づいていく物語です。

物語の間には、同名の楽曲として発表されている五つの詩を収録しています。

「沈む光」
「声にならない春」
「手の中の宇宙」
「ほどけていく」
「川のむこうへ」

さらに物語のあとには、呼吸と手の感覚を通して、自分の中にある悲しみや後悔を静かに見つめる「七日間の『風の川』瞑想」を収録。

読むこと、詩を味わうこと、音楽を聴くこと、そして呼吸すること。

四つの体験を一冊に重ねた、「読む瞑想」の物語です。

手放すことは、忘れることではありません。

指を開いても、触れていた温かさは消えない。

手の中に何も見えなくても、愛した時間がなかったことにはならない。

大切な人へ伝えられなかった言葉がある方へ。

後悔を抱えたまま、立ち止まっている方へ。

この物語が、あなたの中に止まっていた水へ、小さな風を届けられますように。

※本書はフィクションです。登場する人物、団体、施設、名称および出来事は、著者の創作によるものであり、実在する人物、団体、施設および出来事とは関係ありません。

本書に描かれる医療、看護、介護および看取りに関する場面は、物語上の表現です。個別の医療・介護上の判断や助言を目的とするものではありません。

本書で紹介するムドラ、呼吸法および瞑想は、自分の心身の状態に気づくための補助的な実践です。病気の診断、治療、予防または症状の改善を保証するものではなく、医療行為や専門家による支援の代わりになるものではありません。

心身に不調がある方、治療中の方、瞑想の実践に不安がある方は、必要に応じて医師または専門家へご相談ください。